奥飛騨温泉郷 中尾地熱発電所建設プロジェクト
温泉文化と地熱発電が共栄共存する最高の地熱発電所
中尾地熱発電所の建設プロジェクトを率いたお客様である株式会社シーエナジー(中部電力グループ)の西村和哉さま、松崎正貴さまと、建設に多大なご協力をいただいた有限会社中尾温泉の内野政光さまに、中尾地熱発電所建設にかけた思いと、東芝プラントシステムに対する評価などについてうかがいました。
有限会社中尾温泉
代表取締役社長
内野 政光さま
株式会社シーエナジー
再生可能エネルギー・新規事業開発本部
地熱発電事業グループ長
西村 和哉さま
株式会社シーエナジー
再生可能エネルギー・新規事業開発本部
地熱発電事業グループ 部長補佐
松崎 正貴さま
中尾地熱発電所をつくることになったきっかけ
- 有限会社中尾温泉
内野さま
奥飛騨温泉郷には平湯温泉、福地温泉、新平湯温泉、栃尾温泉、新穂高温泉の5つの温泉地がありますが、私たちのいる中尾地区は新穂高温泉の最奥で、北アルプスの山々に囲まれ、良質で豊富な温泉に恵まれた地域です。温泉ブームだった1980年代には、年間120万人もの観光客が押し寄せるほどで、なかでも中尾地区は日本有数の露天風呂があると人気の温泉地でしたが、バブル崩壊で観光客が減少してしまいました。
中尾地区では源泉となる温泉井(温泉の井戸)の維持管理を、地区の温泉宿が共同で設立した会社で行っていますが、旅館によってはその支払いも苦しくなるような状況となり、さらには8本あった温泉井のうち1本で噴出が止まってしまいました。復旧するには多額の費用がかかり、またその先もどうやって管理していけばよいものかと思っていたところ、中尾温泉の温泉を利用した地熱発電所建設の相談が何件かありました。
そのなかの1社が東芝エネルギーシステムズで、発電所用に新たな温泉井(生産井)を掘り、蒸気で発電した後の温泉は中尾地区に無償で提供していただけるということになりました。
当初、東芝エネルギーシステムズと一緒に事業を行っていた会社が撤退し、代わりにシーエナジーが加わることになりましたが、私たちにとっても身近で慣れ親しんだ中部電力グループの会社なので安心して任せることができました。発電用の井戸が止まってしまったり、計画が変更になったりと紆余曲折はありましたが、とくに西村さんは地元との対話を大切にしてくれたこともあり、発電所の完成を地域のみんなが楽しみにしていました。
- 株式会社シーエナジー
西村さま
株式会社シーエナジーは総合エネルギーサービス企業として、太陽光発電やバイオマスなど、さまざまな事業に取り組んでいます。C02削減に向けて新たな再生可能エネルギー事業を模索していたときに、東芝エネルギーシステムズから地熱発電所建設プロジェクトの話を聞いて強い興味をもち、自ら志願して担当させてもらいました。シーエナジーが参画した当時、最初に掘った井戸の蒸気噴出量が十分ではなく、2本目の井戸を掘るかどうか検討している状況で、プロジェクトを進めるには事業継続の意思確認が必要でした。
「ああ偉なるかな飛騨の山」と
書かれた大のれん(株式会社シーエナジー提供)が掲げられています
私はまず初めに中尾地区のみなさんが、地熱発電に対してどのように考え、何を望んでおられるのかを確認するために現地を訪問したのですが、みなさんから「中尾温泉を存続させたい」「お湯がどうしても必要だ」という切実な思いをお聞ききしました。そして、私自身も「地域の方々のために何とかしたい」という強い思いを抱き、発電所建設を絶対成功させようと誓いました。
井戸を掘るのに必要な県の許可を得るために内野さんと一緒に奔走し、粘り強く交渉して掘削の許可を得たのですが、2本目に掘った井戸も蒸気の噴出量がなかなか安定せず、継続的に蒸気が得られるようになるまで、ここでは語り尽くせないほどの試行錯誤と苦労がありましたが、あきらめようと思ったことはありませんでした。
東芝プラントシステムへの期待
- 株式会社シーエナジー
松崎さま
最終的な井戸の噴気試験評価と事業化の検討が行われ、それに続く発電所の設計に入る段階あたりから、私もプロジェクトに携わるようになりました。以前は中部電力の火力発電所で西村さんと一緒に仕事をしており、私はタービンのメンテナンスを担当していたのですが、東芝製のタービンは高い信頼性があると感じていました。中尾地熱発電所でも心臓部となる蒸気タービンは東芝製を導入することになりましたが、それを入れる発電所建屋の施工や機器設備の据え付けを安心して任せられる会社として、中部電力でも多くの施工実績があり、何よりも東芝グループとして東芝製の機器やタービンに精通している東芝プラントシステムにお願いすることになりました。
- 株式会社シーエナジー
西村さま
初めて東芝プラントシステムの本社に訪問し、参加した会議には社員の方が30名ほど出席していたのですが、まず私が強調したのは「今回のプロジェクトでは、中尾地区に昔から根づいている文化があり、それに合わせた形の発電所でなければならない」ということです。立派なものを作りたいのではなく、地元のニーズを踏まえて、コンパクトかつリーズナブルに、地域の人たちに親しまれる発電所を高度な技術で作り上げてほしいとお願いしました。
その夜の懇親会でも、「地域の方々を最優先し、地域とともに歩んでいける発電所を考えてほしい」と強くお話ししました。
シーエナジーが参画してからの7年間、私たちは中尾地区に溶け込み、中尾地区のみなさんの思いを理解するよう努めてきました。「工事を担う東芝プラントシステムのみなさんにも、ぜひ私たちと同じように『中尾地区のみなさんのための発電所』という思いを共有してほしい」と熱く語ったので、少し驚かれたようでしたが(笑)。
プロジェクトマネージャーの西さんをはじめ、メンバーのみなさんにも理解していただけたと思います。
東芝プラントシステムの技術力・現場力
- 有限会社中尾温泉
内野さま
工事が始まると現場事務所があっという間に建ち、大きな重機が入りどんどん工事が進んでいくので、これはすごいと思いました。計画が始まってから7年が過ぎ、建設工事が始まったのは、発電開始まで2年しかない頃で、予定通り完成するのか最初は半信半疑でした。ところが、現場の景色が毎日のように変化し形になっていくので、進捗を見に行くだけでも楽しかったですね。
ちょうどコロナ禍の最中だったこともあり、外部から中尾地区へ工事関係者が大人数でやってきて、感染者が出るのではないかと心配する人もいましたが、安全対策だけでなく、感染予防対策もしっかりしてくれていたので、工事が行われた2年間、地区では誰一人感染することはありませんでした。
工事担当者がうちの旅館に宿泊することもありましたが、皆さん個性的で、国内外の各地でさまざまな工事に携わった経験がある方たちのいろいろな話を聞くのも楽しみでしたね。渓流釣りが好きな人や登山好きの人もいて、地域に親しんでくれたのもありがたかったです。
本社やタービンの製造工場に行って見学する機会も設けてもらい、とても勉強になり感動しました。
- 株式会社シーエナジー
松崎さま
事業者側として、ときには厳しいことを言わなければならない場面もありますが、東芝プラントシステムのみなさんは、粘り強く対応してくれました。プロジェクトマネージャーの西さんに、何か一つ要望を伝えると、その要望を実現するだけでなく、さらに3つも4つも先を見据えた提案や対応が返ってくるので、率直に「プロとしてのすごさ」を感じました。
また、工事を進めていくなかにはトラブルなどもありましたが、「できない」という回答は一度もありませんでした。例えば災害や天気などのやむを得ない事情で工期が遅れそうなことがあっても、代替案、解決案を検討し、「できない」ではなく「間に合わせる」ための方法を考え、常に事業者である我々の立場を理解したうえで100%やり切る姿勢に、技術者としてのプライドを垣間見た気がします。
発電所が完成して
- 有限会社中尾温泉
内野さま
私たちも今回の工事によって豊富な温泉を確保し、温泉を存続できたのはとてもありがたいです。これから世代交代しても、この資源を活用して地域を発展させていきたいと思っています。
中尾地区のために、今回、関係者のみなさんが良いチームワークで素晴らしい仕事をしてくれたことにとても感謝しています。
- 株式会社シーエナジー
西村さま
今回の工事はいろんな会社へ別々にお願いするバラコンという形をとりましたが、やはり全体の協力関係やコミュニケーションが取れていないと、うまく進みません。そのなかで東芝プラントシステムには全体のジョイント役的なポジションを期待したのですが、見事に応えてくれて、現場全体がスクラムを組んでゴールに向かうことができたと思います。
厳しいことも言いましたが、最終的には、それ以上に素晴らしい結果を返していただけたと思っています。発電所が無事に完成した後、工事で奮闘してくれた皆さんを竣工祝賀式にお招きして感謝の言葉をお伝えしました。すると最後に営業の林さんが「西村さんがいたからこのプロジェクトができた」と言って、メンバーのみなさんが私を胴上げしてくれました。これにはさすがの私も男泣きしました。
みなさんのおかげで素晴らしい発電所ができました。完成して終わりではなく、今後の運転、点検と引き続き東芝プラントシステムのみなさんの支援が必要です。
東芝プラントシステムの高い技術力とともに50年後も愛され続ける発電所にしていきたいと思います。
- このコンテンツは、2025年に取材・製作しました。